技能実習制度を20年以上見てきて感じたこと
私は2000年に衆議院議員となり、その後、野党議員として外国人技能実習生の劣悪な労働環境を改善する取り組みに関わってきました。
技能実習制度には、長い間、大きな矛盾がありました。
企業側には、人手不足を補うために外国人に働いてもらいたいという事情があります。一方、技能実習生の側にも、日本の技術を母国へ持ち帰ること以上に、日本で働いて収入を得たいという現実的な目的があります。
ところが制度は、「日本の技能を開発途上地域等へ移転する国際貢献の制度」であるという建前で運営されてきました。
この本音と建前のずれが、さまざまな問題を生んできたのではないかと私は考えています。
さらに、企業にも技能実習生にも、日本語を十分に学ぶことの重要性が必ずしも共有されていませんでした。
企業からすれば、できるだけ早く来日して働いてほしい。実習生からすれば、日本語の勉強に時間をかけるよりも、早く日本へ行って働きたい。
双方に、そのような事情があったからです。
現場の問題の根底にあった「言葉が通じない」ということ
しかし、実際の現場を見ていると、日本語によるコミュニケーションが十分に取れないことが、さまざまな問題を深刻にしていました。
例えば建設現場では、安全のために細かな指示を確実に伝える必要があります。
ところが言葉が十分に通じなければ、「危ないからそこに入ってはいけない」「この作業はこの手順で行う」といった指示さえ正確に伝わりません。
反対に、技能実習生が困っていることや、不満に感じていること、体調の変化なども、会社側に十分伝えられません。
問題が起きてから考えてみると、その前段階には「きちんと話ができていなかった」ということが少なくありませんでした。
私は次第に、外国人を受け入れるうえで最も基本的なインフラの一つが、日本語なのではないかと考えるようになりました。
日本語ができれば、仕事の指示が伝わります。
危険も伝えられます。
本人も、自分の考えや悩みを伝えられます。
そして何より、経営者や日本人従業員と外国人従業員との間に、人と人との関係をつくることができます。
制度が変わる前から、日本語教育に取り組んできました
私が専務理事を務める公益財団法人国際人材普及振興協会(APSIP)では、技能実習制度の時代から日本語教育を非常に重視してきました。APSIPの母体である株式会社インフィニットグロースは、ファーストスタディ日本語学校を運営しています。
私たちは、日本語教育の専門家である教師を実習生の母国へ派遣し、日本に来る前から日本語を教えてきました。
中でも「N4ハイパー」と呼んできた教育では、資格としては日本語能力試験N4相当を取得しながら、発話と聴解についてはさらに高いレベルまで引き上げてから来日してもらうことを目標としてきました。
追加の教育費用は1人45万円です。
決して小さな金額ではありません。
しかし、技能実習の約35か月の就労期間で考えれば、1か月あたり1万円余りです。
企業にとっては、職場で十分なコミュニケーションが取れ、安全面や労務管理上の問題を減らすための費用と考えれば、十分合理的な投資であると受けとめていただいています。
実際、APSIPでは技能実習の監理事業を開始して丸6年間、失踪者を一人も出していません。
もちろん、その理由を日本語教育だけに求めることはできません。適正な労務管理、日常的な支援、企業との関係づくりなど、さまざまな取り組みの結果です。
しかし、その土台の一つに、日本語によるコミュニケーションがあることは間違いないと私は考えています。
育成就労では「A2」が目標になる。しかし、私たちにとってはスタートです
育成就労制度では、日本語能力がこれまで以上に重視されます。
制度上、就労開始前の日本語能力や、日本で働きながらさらに日本語能力を高めていく仕組みが設けられ、育成就労を終える段階ではA2相当の日本語能力が一つの重要な目標になります。
これは大きな変化です。
ただ、APSIPが目指しているのは、A2の試験に合格してもらうことではありません。私たちが受け入れてきた技能実習生の多くは、すでに入国時点でA2相当の試験に合格しています。
つまり、私たちにとってA2はゴールではなく、スタートラインなのです。
その後、特定技能1号へ進み、さらに特定技能2号に挑戦する人もいます。介護分野では、介護福祉士の国家試験に合格した人も出ています。
外国人が日本で働き始め、その後、自分の力でキャリアを築いていく。そこまでを見据えることが、本当の意味での「人材育成」だと考えています。
日本語を学ぶ目的は、日本社会の中で生きるため
日本語教育の目的は、試験に合格することだけではありません。
近年、日本語教育では、外国人を単なる「日本語の学習者」としてではなく、日本社会の中で暮らし、人と関わり、自分の人生をつくっていく「社会的存在」として捉える考え方が重視されるようになっています。
私は、この考え方が非常に重要だと思っています。
外国人が日本語を学ぶ。
会社の人と話ができる。
近所の人とあいさつができる。
自分が困ったときには助けを求めることができ、自分の考えを相手に伝えることができる。そうして初めて、その人は日本社会の中で自分の居場所をつくることができます。
外国人材を受け入れるということは、単に労働力を受け入れることではありません。一人の人間を、会社の仲間として、地域社会の一員として迎えることなのだと思います。
人手不足の時代だからこそ、「選ばれる会社」をつくる
日本社会は、急速に人手不足の時代へと入っています。これから企業に必要なのは、「外国人だから働いてくれる」という発想ではありません。
外国人であろうと日本人であろうと、
「この会社で働きたい」
「この人たちと一緒に働きたい」
「ここで働くことに生きがい、働きがいを感じる」
と思える環境をつくることです。
そのためには、企業自身が「私たちは何のためにこの会社を経営するのか」「従業員と一緒に何を実現したいのか」という理念を改めて問い直すことも必要になります。
育成就労制度への移行は、単に外国人雇用の制度が変わるという話ではありません。
日本企業が外国人材とどのように向き合うのか。そして、国籍にかかわらず、一人ひとりの従業員とどのような会社をつくっていくのか。そのことが問われる制度改革だと考えます。
APSIPは、技能実習制度の時代から取り組んできた日本語教育と外国人材育成の経験を生かし、育成就労制度においても、外国人と企業の双方に寄り添う監理支援機関でありたい。
外国人を単なる「人手」として受け入れるのではなく、共に働き、共に成長していく仲間として迎える。
そのための土台をつくることが、これからのAPSIPの役割だと考えています。








