A1・A2とは何を表しているのか
文部科学省の「日本語教育の参照枠」では、日本語能力をA1、A2、B1、B2、C1、C2という6段階で示しています。
A1、A2は「基礎段階の言語使用者」、B1、B2になると「自立した言語使用者」です。
ここで重要なのは、単に「単語を何語知っている」「漢字を何字読める」といった知識量だけで日本語力を測ろうとしているのではないことです。
「日本語を使って何ができるのか」。
これを「Can do」という考え方で捉えます。
「日本語教育の参照枠」では、「聞くこと」「読むこと」「話すこと(やり取り)」「話すこと(発表)」「書くこと」という5つの言語活動から、日本語を使って何ができるかを考えます。
つまり、A1・A2は、単なる試験の級ではありません。
日本語を使って、実際の生活や仕事の中で何ができるのかを考えるための物差しです。
A1とはどの程度の日本語力なのか
文部科学省の「日本語教育の参照枠」では、A1について、よく使われる日常的な表現や基本的な言い回しを理解し、相手がゆっくり、はっきり話して助けてくれるなら、簡単なやり取りができる水準とされています。
これを職場に置き換えてみましょう。
例えば、工場で機械が止まったとします。
A1の人なら、
「機械、止まりました」
と伝えることができるかもしれません。
そこで上司が、
「赤いランプですか?」
「いつ止まりましたか?」
と、ゆっくり簡単な言葉で一つずつ質問すれば、それに答えながら状況を伝えていくことができます。
体調が悪くなったときなら、
「頭、痛いです」
「休みたいです」
と伝える。
仕事が分からなければ、
「分かりません」
「もう一度お願いします」
と言う。
これも非常に大切な日本語です。
しかしA1では、基本的に相手側の協力が必要です。
日本人側がゆっくり話す。文を短くする。指をさす。実物を見せる。質問を一つずつする。
A1とは、周囲に助けてもらいながら、日本語で最低限のやり取りができる段階だと考えると分かりやすいでしょう。
A2とはどの程度の日本語力なのか
A2になると、少し様子が変わります。
「日本語教育の参照枠」では、仕事、買い物、近所のことなど、自分と直接関係する身近な事柄について、よく使われる表現を理解し、簡単で日常的な情報交換ができる水準とされています。
例えば、
「機械が止まりました。赤いランプがついています」
「昨日から頭が痛いです。少し休んでもいいですか」
「これは先に運びますか。それとも、こちらを先にしますか」
といったように、単に一言で反応するだけではなく、簡単な情報を組み合わせて相手に伝えられるようになってきます。
仕事の指示についても、
「これを10個作って、終わったら箱に入れてください」
といった、慣れた仕事についての簡単な指示なら、理解できる範囲が広がってきます。
私は、A1からA2への変化を、
「助けてもらいながら日本語を使う段階」から「自分から日本語を使ってやり取りを始める段階」への変化
と捉えると、企業の方にも分かりやすいのではないかと思っています。
A1とA2では、職場で何が違うのか
例えば機械に異常が起きた場面を考えてみます。
A1なら、
「機械、止まりました」
と知らせる。
A2なら、
「機械が止まりました。赤いランプがついています」
と、もう一つ情報を付け加える。
体調不良なら、A1では、
「頭、痛いです」
と伝える。
A2なら、
「昨日から頭が痛いです。少し休んでもいいですか」
と、状況と自分の希望を一緒に伝える。
この違いは決して小さくありません。
A1からA2になることで、「何かを伝える」だけでなく、「状況を説明し、相手とやり取りする」方向へ日本語が広がっていきます。
日本語が必要なのは仕事中だけなのか
日本語教育を考えるとき、もう一つ忘れてはならないことがあります。
外国人材が日本語を必要とするのは、勤務中だけではありません。
スーパーで買い物をする。
病院へ行く。
電車が遅れたことを会社に連絡する。
寮のエアコンが壊れたことを伝える。
近所の人と話をする。
職場で困ったことを上司や支援者に相談する。
日本で生活する以上、職場の外でも日本語を使う場面は続きます。
例えば、
「エアコン、動きません」
でも故障していることは伝わります。
しかし、
「昨日からエアコンが動きません。暑いので見てもらえますか」
と言えるようになれば、自分が置かれている状況と、相手にしてほしいことまで伝えられます。日本語力を高めることは、単に企業が仕事を教えやすくするためだけのものではありません。
外国人本人が、自分の意思を伝え、自分で生活し、必要なときには自分自身を守るためにも、日本語は必要なのです。
A2になれば、日本語で困らなくなるのか
ここは特に注意していただきたいところです。
答えは「いいえ」です。
A2になれば、一人で何でも日本語でできるということではありません。
文部科学省の「日本語教育の参照枠」では、A1とA2はいずれも「基礎段階の言語使用者」です。
その次のB1、B2になって、初めて「自立した言語使用者」と位置付けられます。
例えば職場で事故が起きて、
「材料が詰まったので機械を一度止めました。その後、○○さんから再起動するように言われたのでスイッチを入れたところ……」
と、時間の経過や原因、他人とのやり取りを順序立てて説明する。
あるいは、
「先月から毎朝30分早く来るように言われていますが、その時間が給与に入っていないようです」
と、労働条件について相談する。
このような複雑な事情を正確に説明することまで、A2の人に求めるのは適切ではありません。
A2まで到達していても、重要な場面では通訳や支援者が必要になることがあります。
A2は、日本語教育のゴールではありません。
むしろ、日本語を使って日本の職場や社会に自分から参加していくための入口だと、私は考えています。
育成就労ではA1・A2がどのように位置付けられているのか
育成就労制度では、日本語能力について段階的な目標が設定されています。
出入国在留管理庁によれば、就労開始前までにA1相当の日本語能力試験に合格するか、A1相当の講習を受講することが必要です。
さらに、原則3年間の育成就労を通じて、基本的にA2相当の日本語能力を身につけ、育成就労終了までにA2相当の試験に合格することが目標とされています。
つまり制度そのものが、
「来日前・就労開始時の最低限の日本語」から「日本で働きながら日本語力を伸ばしていく」
という考え方になっています。
なお、国際交流基金のJFT-Basicでは、2026年8月からA1、A2.1、A2.2(A2)の3段階を判定する仕組みになりました。
A2も、ある日突然到達する一つの点ではなく、A1から段階的に日本語力を伸ばしていく過程として考えることができます。
A2と日本語能力試験N4は同じなのか
育成就労について調べていると、
「A1はN5、A2はN4」
という説明を目にすることがあります。
制度上の目安としては分かりやすいのですが、ここには注意が必要です。
日本語能力試験(JLPT)では、2025年12月以降の合格者についてCEFRレベルが参考表示され、N4合格者にはA2と表示されます。
しかし、JLPT公式サイトは、このA2という表示について重要な説明をしています。
JLPTが測定しているのは、「言語知識」「読解」「聴解」です。
CEFRでいう「話す」「書く」といった産出活動や、実際に人と会話する「やり取り」は、JLPTでは測定していません。
つまり、
「N4に合格した」ことと、「職場でA2相当の会話ができる」ことは、同じ意味ではありません。
試験問題なら答えられても、
「昨日どうして仕事を休んだのですか」
と突然上司から聞かれると、うまく答えられないこともあります。
逆に、漢字や文法の試験は得意ではなくても、職場では日本人と積極的にコミュニケーションを取れる人もいます。
だからこそ、資格だけを見るのではなく、
「その人が日本語を使って何ができるのか」
を見る必要があります。
APSIPの「N4ハイパー」とは何か
そこで、APSIPでは「N4ハイパー」という目標を掲げています。
N4ハイパーとは、単にN4より難しい漢字を覚えたり、N3の文法を先取りしたりすることではありません。
APSIPでは、N4ハイパーを、
「N4・A2相当の日本語力を基礎としながら、発話・聴解についてはA2を超えてB1に近づける」
ことと定義しています。
読む力や文法知識だけを先へ進めるのではありません。
日本で働き、生活するために特に重要な「話す力」と「聞く力」を重点的に伸ばそうという考え方です。
なぜ、そこまで必要なのでしょうか。
A2なら、
「昨日から熱があります」
と伝えることができます。
しかし実際の生活では、
「一昨日の夜から熱が出て、昨日は薬を飲みましたが、まだ下がりません。今日は病院へ行きたいです」
と、時間の経過を追って説明しなければならないことがあります。
仕事でも、
「機械が止まりました」
だけではなく、
「材料を入れたあとに機械が止まりました。いつもと違う音がして、そのあと赤いランプがつきました」
と、自分が見聞きしたことを順序立てて説明できれば、コミュニケーションの質は大きく変わります。
自分から質問する。
自分の状況を説明する。
相手の説明を聞いて確認する。
困っていることを相談する。
私たちが「N4ハイパー」で目指しているのは、こうした日本語です。
「知っている日本語」を「使える日本語」へ
例えば、「病院」という単語を知っている。
「熱」という漢字を読める。
それも大切です。
しかし、それだけでは十分ではありません。
「昨日から熱があります。まだ下がりません。病院へ行きたいです」
と、自分の状況を相手に伝える。
さらに、
「いつからですか」
「何度くらいありますか」
「薬は飲みましたか」
と聞かれたときに、それを聞き取り、答えながらやり取りを続ける。
ここで必要になるのが、まさに発話と聴解です。
N4ハイパーとは、「知っている日本語」を「使える日本語」に変え、特に話す力と聞く力をB1に近づけていく取り組みです。
試験のためだけの日本語ではありません。
仕事をするための日本語。
生活するための日本語。
困ったときに助けを求めるための日本語。
そして、人と関係をつくるための日本語です。
育成就労では、基本的に3年間を通じてA2相当の日本語能力を身につけることが目標とされています。
しかし、私たちはA2を日本語学習の終着点だとは考えていません。
A2は、日本語を使って日本の職場や地域社会に自分から参加していくための入口です。
だからAPSIPでは、単に「N4に合格しました」で日本語教育を終わらせるのではなく、その日本語を実際の仕事と生活の中で使えるところまで伸ばしていきたい。
そして特に、話す力と聞く力については、A2の先、B1に近づくところまで育てたい。
それが、私たちの考える「N4ハイパー」です。
外国人材を本当に「育成」する制度にしていくのであれば、試験に合格したかどうかだけではなく、
「その人が日本語を使って何ができるようになったのか」
そこまで見ていく必要があると、私は考えています。
参考にした公的資料
文部科学省「日本語教育の参照枠」
A1・A2を「基礎段階の言語使用者」、B1・B2を「自立した言語使用者」と位置付け、「聞くこと」「読むこと」「話すこと(やり取り)」「話すこと(発表)」「書くこと」の5つの言語活動から日本語能力を示しています。
https://www.mext.go.jp/content/000308828.pdf
出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」
育成就労制度における就労開始前の日本語能力要件や、育成就労期間中に目標とされるA1・A2相当の日本語能力について説明されています。
https://www.moj.go.jp/isa/applications/faq/ikusei_qa_00002.html
日本語能力試験(JLPT)「CEFRレベル参考表示」
2025年12月試験以降、N4合格者にはA2が参考表示されます。ただし、このCEFRレベルの参考表示はJLPTが測定している「言語知識」「読解」「聴解」に基づくものであり、「話す」「書く」「やり取り」は測定対象に含まれていないことが説明されています。
https://www.jlpt.jp/about/cefr_reference.html
国際交流基金「JFT-Basic 国際交流基金日本語基礎テスト」
JFT-Basicの目的や試験内容、日本の生活場面で必要となる日本語コミュニケーション能力の考え方が示されています。2026年8月からは、A1、A2.1、A2.2(A2)の3段階で判定する仕組みとなっています。
https://www.jpf.go.jp/jft-basic/about/index.html








