COLUMN 外国人技能実習制度とは何か

外国人技能実習制度とは何か

「人手不足になったから外国人材を導入したいです」
「でも、 なぜこんなに外国人採用はややこしいのでしょうか」

このような声が私のところに寄せられます。

外国人技能実習制度は日本の技能や技術、知識を開発途上国へ移転し、その地域の経済発展に寄与することを目的とした制度です。
でも、実際には企業の人手不足を解消する手段になっています。

これは一体何なのか。
普通に日本人を雇用して働いてきた経営者の方にとっては
わけの分からない制度に見えることでしょう。

一般的に世に出ている外国人労働者に関する記事は建前を前提に書かれています。
そのため、 実際には何が起こっているのかが分かりにくい。
そこにダークなブローカーが介在するスキマが生まれてきます。

ここに書き記した内容にはいくぶんか私の政治的な見解が入っています。
他の解説記事が中立的な記述に努めるがゆえにかえって分かりにくいものになっていると思い、
あえて政治的な見解の部分を入れています。

その理由は、日本国の外国人政策が政治の力によって決まってきたからでした。

政治的な要素を省いて解説すると
なぜ外国人技能実習生が現状のようになっているのかについては見えてこない
政治的な背景を理解することで
外国人技能実習制度の建前と社会の本音の関係が浮き彫りになってきます。

政府の公式見解を見ているだけでは理解しがたかったことがこの記事を読んでいただくことで、
今まで理解しがたかった理由に気づいていただけるのではないかと思います。

はじめまして。中村哲治と申します。
私は2000年から衆議院議員と参議院議員を合わせて10年余り国会議員を務め、その間に2009年から1年間は法務大臣政務官として日本の外国人出入国管理行政の責任者を務めていました。

この 20年間、私は野党議員として、また、与党議員及び政府の中の人間として、更には、 民間の事業者として、外国人技能実習制度の光と闇の部分に携わってきました。

少しでも外国人技能実習制度と制度の運営を良くしたいという思いで取り組んで参りましたが、私のような立場で継続的に外国人技能実習制度に携わってきた人は少ないようです。

そこで、できるだけ社会が求めている外国人技能実習制度の本音の部分が分かる形でお伝えいたします。

あるべき外国人労働者の受け入れ制度とは

まず、外国人労働者の受け入れについて私がどのように考えているかという結論部分を先に書きます。

外国人技能実習制度は本音と建前の乖離がひどすぎます。
廃止するぐらいの覚悟で大改革をすべきです。

実際に政府も外国人技能実習制度の改革に取り組むことになりました。(2023年4月10日 追記:中間報告(たたき台)が発表され技能実習は廃止されるみこみとなりました。早ければ再来年2025年以降に新制度が始まります。)

外国人の技能実習制度見直しへ 有識者会議を設置 年内に初会合

私は外国人技能実習の監理事業を行う監理団体の監理責任者を務めています。
外国人技能実習制度が無くなれば、私の仕事は将来なくなってしまうかもしれません。
しかし、それは構わないのです。

なぜならば、外国人が日本に来て日本できちんと人間らしく働いてもらい日本を好きになって自分の国に帰ってもらうことが私の願いだからです。

制度がきちんと改革されれば、私の次の仕事も自ずから出てくるでしょう。
ただ、本当の改革には後で述べるように入管法の抜本改革が必要です。

でも、現在の日本の国政では現実的には不可能に近い。

そこで、制度の目的を技能の移転ということに留めた上でマイルドな改革をするのが現実的です。
例えば現在は、外国人が身についた技能を事後的に試験で判断していますが、これを、入国前に日本語能力を試験で問う形に変えるのです。
つまり、規制をかける対象を技能の習熟度にするのではなく、入国前時点の日本語能力にするわけです。

昨今、外国人技能実習生による外国人犯罪が報道でもよく見られるようになりました。
その大元の原因は、日本語を話せない実習生が事業主とのコミュニケーションを取れないことにあります。
日本人が英語を学ぶときを考えれば容易に想像できます。

日本語を一定のレベルまで学ぶ外国人は日本に来る前にかなりの努力をしなければなりません
日本語を学ぶ過程で甘い考えを持っている人たちは日本に来る前に淘汰されます。
その日本語学習の困難さを乗り越えて日本語能力検定4級相当の試験に合格した人たちであれば、
日本に来て現場の仕事に就いても問題を起こすことはほとんどありません

このような外国人の方は日本で日本人と交流して多くのことを学び、日本を好きなままで帰っていただけます。

現状 あるべき姿
日本語能力 入国時の日本語能力は問われない 入国時に日本語能力検定4級相当は必要
結果
どうなるか
日本人社員との会話が成り立たないので双方にとってストレス
逃亡の原因になる。
コミュニケーションが取れるので円滑な技能移転が可能になる。

外国人技能実習制度の改革ができない理由

でも、現実にはこのようなマイルドな制度改革さえできません。
なぜなのか。

それは、既得権益者が改革を阻むからです。
不可解な規制緩和をひとつご紹介しましょう。

2017年、介護職種の技能実習が導入された際、入国時に日本語能力検定3級合格が必要だったのに、規制が緩和され
「4級で入国、1年内に3級合格」と要件が変更になり
次に1年内で3級に合格できないということで更に規制が緩和され
事実上「4級のままで3年間、技能実習ができる」ようになりました。

この規制緩和で起こったことは「日本語能力の低い外国人技能実習生が介護現場に長い期間、実習生として滞在できることになった」ということです。
なぜ介護という日本語能力が要求される技能実習でこのようなことが起こったのでしょうか。

政権与党に対する陳情があったとみられています。

監理団体は全国に約3600団体あり、その実態は明らかになっていません。
他の業界であるように監理団体の監理レベルを比べて評価付けする公的な機関もありません
30 年間の歴史の中で利害関係者が多くなっているため、 身動きが取れなくなっています。

なぜ日本語能力を基準にするのではなく技能試験を基準にしているのかと言えば、日本語能力を要件にすると多くの外国人技能実習生候補が日本に来られなくなってしまうからです。2017年に施行された技能実習法の施行前から監理団体を運営している事業協同組合の多くは、海外に日本語教師を送って外国人技能実習生候補の日本語能力を高くしてから受け入れることができません。

彼らは日本語能力が低くても 「安い人件費、安い教育費」を求めてきたからです。 マイルドな改革とはいえ、いきなり私が主張しているような改革を行えば、 3600の監理団体はほとんど対応することができず、約40万人いる外国人技能実習生が日本に入ってこられなくなります

だから、段階を踏んで、徐々に私が主張するような日本語能力重視の方向に向かうように変えていくしかないのかな、と個人的には考えています。

出入国管理法の闇

さあ、ここから本題に入ります。
言うまでも無いことですが、外国人技能実習制度と出入国管理法は密接な関係を持ちます。

私が外国人の出入国管理行政に携わって20年間の間、相も変わらず日本国の出入国管理行政には問題が多いという報道がなされてきました。

「なぜなのか。法務省の出入国管理行政を担当する職員は無能なのか。

そう考える人もおられるでしょう。
私の目から見るとまったく違います

入管職員は行政の職員として日本国憲法により法律に基づいた行政を行う義務を負っています。
法律が悪いので、仕方なく決められた法律の枠内で行政を行っているというのが現状です。
入管職員は制約のある中で本当によくやっています。

日本の出入国管理行政は「出入国管理及び難民認定法」という法律に基づいて行われます。
略称「入管法」 (にゅうかんほう) です。

外国人の出入国管理行政を担当する機関は、 法務省の外局として独立し今は「出入国在留管理庁」 という形になりました。
以下では、出入国在留管理庁を 「入管庁」 (にゅうかんちょう)と呼びます。

入管法は国際化が進む世界から見れば非常に差別的な考え方に基づいて作られています。
入管庁「新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」PDF 資料の5ページ目をご覧ください

労働者として受け入れる外国人は分類されている

ここに記載されている通り、日本国が外国人労働者を受け入れる場合には 「専門的・技術的分野の外国人」と「上記以外の分野の外国人」 とで扱いを大きく二つに分けています

私なりに言い換えれば、一級外国人と二級外国人に分けて、日本にとって都合のいい一級外国人には簡単に日本に来てもらってそうでない二級外国人には日本への入国に高いハードルを設ける形になっています。

出典:https://www.moj.go.jp/isa/content/001335263.pdf

なぜこのような差別的な取り扱いになっているのか。

それは日本の入管法ができるだけ外国人を排斥して日本に入れないという姿勢を基本にしているからです。
あえて分かりやすく言えば、日本の右派の政治家は 「日本人の血が汚れる」という思想から外国人の日本への定住を好まず、 また、日本の左派の政治家は「日本人の職が奪われる」という思い込みから外国人労働者の受け入れに反対します。
このように日本の国会では右派も左派も外国人の受入れに消極的です。
そのため、入管法は基本的に外国人を受け入れないという姿勢になっているわけです。

その一方で人手不足への対応を求める経済界

少し歴史を遡ってみますと、1980年代から日本では人手不足が顕在化してきました。
経済界から現場の仕事、いわゆる3Kの仕事「きつい、汚い、危険」の仕事に外国人を就かせたいというニーズが示されるようになりました。

ここでまず日本に呼ばれた外国人は日系人でした。
戦後、外務省による「棄民政策」により南米に移民させられた日本人の子孫です。
しかし、遠くに居る日系人を日本に呼ぶにはお金もかかります。
代が変われば日系人といっても中身は完全に外国人です。

そこで「何とかして日本の人手不足に対応するため、南米からではなくアジアから人を呼べないか」
というニーズが経済界から政権与党の方に
寄せられたわけです。
そこで考えつかれたのが「外国人技能実習」というしくみです。

正確には既存の実習の制度を転用しました。
それまでも、一つの企業内で完結する技能実習のしくみがありました。
具体的に言えば、大企業が進出先の途上国で採用した社員を日本に招くようなケースです。

現地の社員を日本に来させて技術を覚えさせて途上国の子会社に戻す。
このように一つの企業内で親子関係にある日本の本社と海外子会社の間で人の行き来をさせ、技能の移転を行うというしくみです。
これが「外国人技能実習」制度の原則形「企業単独型」技能実習です。
それを転用して、例外の形として「団体監理型」の外国人技能実習制度を創設しました。1993年のことです。

「現代の奴隷制度」と評された外国人技能実習制度

建前としては日本の中小企業でも国際貢献のために技術の移転をしたいという企業がたくさんある
その企業たちに国際貢献のチャンスを与えてあげてほしい。
そこで事業協同組合を中心に団体としての監理を行うことで「中小企業にも技能実習生の受け入れを可能にする制度を作ろう」という建前で制度が作られました

しかし、実態は「外国人はモノ扱いにすればいい。安い労働力として使い倒せばいい」というものでした。
そのため、制度が出来た当初は、外国人技能実習生には日本の労働法が適用されないという信じられないような扱いになっていました。

研修だからという理由で最低賃金を大きく下回る手当で働かされ、住まわされる部屋は一部屋に何人も詰め込まれる部屋。
それでも日本で少しでも働きたいと言う外国人の思いにつけこんで過酷な労働環境に置いてきたわけです。

当然、国際社会からは厳しい批判に晒されました。
国連の人権委員会から「現代の奴隷制度だ」と是正の勧告がなされました。

その後、入管法の改正があり、それまでは在留資格「特定活動」の中の一つのカテゴリーとされていたのが、在留資格「技能実習」と独立をされ、2010年 (平成22年) 7月から統計上も「技能実習」という形で外国人技能実習生の実数が表示されるようになりました。

その時点で、ようやく外国人技能実習生に日本の労働法が適用されるようになりました。
団体監理型技能実習制度ができてから17年も経っていました。

改革に取り組む入管職員

外国人労働者の受入れについては2010年代に二つの大きな改革がありました。
一つは技能実習法の制定、 もう一つは特定技能制度の創設です。

技能実習法の制定では、 入管法の大元は変えず、 また技能実習の制度の趣旨も変えないで、今まで外郭団体が取り仕切っていた制度をあらため、「外国人技能実習機構」という新たな国家機関を作り、法務省と厚生労働省から現役出向の形で運営する形を取りました。

この形を取ることで、 技能実習の監理団体は機構の許可を受けなければ事業を行えなくなり、
また、海外にある実習生を日本に送り出す送出機関も、原則として現地の政府から許可を受けた機関でなければならなくなりました。
外国人技能実習機構ウェブサイト

規制が強化される一方で、不透明な運営が透明化され、技能実習事業への参入障壁が撤廃されました。
二つ目の特定技能制度は、正面から日本に人手不足に対応するということを目的に作られたしくみです。
2019年4月から制度が施行され、現在は12分野の業種業界に対して門戸が開かれています。

ここでポイントになるのは、日本語能力 4級相当の試験と技能評価試験に合格した者が対象とされつつも、
技能実習を2号までの3年間修了した者は試験なしに特定技能に進めるようになったことです。

このことにより、いわば三階建ての一階部分の「技能実習」から、二階部分の「特定技能1号」へと上がり、
将来は三階部分の「特定技能2号」 へと上がれるようになりました。
三階部分には従来のいわゆる「高度人材」と呼ばれる「専門的・技術的分野の外国人」が位置され、配偶者や子どもといった家族を帯同させることができます。
つまり、技能実習を入口にして、日本に定住、更には永住権を取得するまでができるようになったわけです。

このような2つの改革を主導したのは、現在入管庁になっている当時の法務省入国管理局の職員たちでした。
その人たちの中から初代入管庁の長官になられた佐々木聖子さんも出ておられます。

外国人技能実習制度の沿革

1993年 外国人技能実習制度創設(団体監理型)
~2010年 在留資格「技能実習」創設 労働法が適用
~2017年 外国人技能実習法施行 外国人技能実習機構創設
2019年 外国人技能実習制度の上部制度として特定技能制度創設

ここまで外国人技能実習制度についてと、その歴史を説明してきました。
外国人技能実習制度の問題点はメディアでも取り上げられることがあり、世間的な認知も決して少なくない問題です。
しかし、制度の創設経緯や歴史的な背景、政治的な見解を含めて語られることはほとんどありません。
この制度が本来の目的に沿って世界の平和と途上国の発展の足がかりとなる運用となっていくことを願ってやみません。

外国人材の採用で何か聞いてみたいことや相談してみたいことがあれば、ご相談ください

公益財団法人国際人材普及振興協会専務理事
元法務大臣政務官 中村哲治