COLUMN 人手不足なのに、なぜ外国人を採用できないのか

人手不足なのに、なぜ外国人を採用できないのか

外食から見えてくる育成就労制度の現在地
これまで4回にわたり、技能実習から育成就労への制度変更、日本語教育、そして日本人・外国人を問わず「人を育てる経営」が必要になることについて考えてきました。

今回は「外食業」を取り上げます。

外食業では深刻な人手不足が続いています。しかし現在、海外から新たに特定技能1号の外国人を採用しようとしても、原則として受け入れることができません。

外食業の特定技能1号は、2026年2月末に約4万6,000人となり、受入れ上限5万人を超えることが見込まれたため、4月13日から在留資格認定証明書の交付が一時停止されたからです。11月2日現在も、この措置は続いています。

出入国在留管理庁「特定技能『外食業分野』における受入れ上限の運用について」

10月19日に公表された最新の審査状況を見ても、海外からの在留資格認定証明書交付申請について処理が進んでいるのは2026年2月6日受付分までです。2月7日以降にも、4月12日までに受理された申請が多数残っています。

なぜ、人手不足に対応するためにつくられた制度で、人手不足の企業が外国人を採用できなくなったのでしょうか。
その理由を理解するためには、まず「5万人」という受入れ上限が、どのような計算で決められたのかを見る必要があります。

外食業では2028年度に何人の就業者が必要と見込まれているのか

政府は2028年度の外食業について、
必要な就業者数 481万1,000人
と推計しています。

一方、供給側については、
「現時点の就業者数455万8,000人が横ばい」
と仮定し、そこから一部を調整して、2028年度の就業者数を455万5,000人と見込んでいます。

したがって、
481万1,000人-455万5,000人=25万6,000人

が2028年度の人手不足数になります。

この数字は、2026年1月7日に開催された「第13回特定技能制度及び育成就労制度の基本方針及び分野別運用方針に関する有識者会議」に提出された「特定技能制度及び育成就労制度の受入れ見込数について(案)」に示されています。

出入国在留管理庁 「特定技能制度及び育成就労制度の受入れ見込数について(案)」

ここでまず確認しておきたいのは、2028年度の455万5,000人という数字が、日本人就業者、外国人就業者、人口動態などをそれぞれ将来推計し、それらを積み上げて算出した数字ではないことです。

基本的には、

「現時点の455万8,000人が2028年度までほぼ横ばいで推移する」

という仮定から出発しています。
では、その「現時点の455万8,000人」とは、何を基に算出された数字なのでしょうか。

「現在の就業者455万8,000人」は何を根拠に算出されたのか

外食業の分野別運用方針では、この就業者数について、
「総務省『サービス産業動向調査』を基に農林水産省で算出」
と説明されています。

農林水産省 「外食業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針及び育成就労に係る制度の運用に関する方針」

しかし、私が公表資料を確認した限りでは、何年、あるいは何月の統計を使ったのか。「飲食店」「持ち帰り・配達飲食サービス業」をどのように扱ったのか。病院、福祉施設、学校などの給食業務をどのように加えたのか。その他にどの産業区分を加減したのか。

 

455万8,000人に至る具体的な合算方法までは示されていません。
ここは、単なる統計資料上の細かな問題ではありません。

455万8,000人は、外国人受入れ上限を決める計算の出発点だからです。

この数字を2028年度までほぼ横ばいと仮定することで、25万6,000人という人手不足数が導かれます。
そこからさらに、生産性向上と国内人材確保によって対応できると見込む人数を差し引き、最終的に外国人の受入れ上限が決まります。

そして現実には、その受入れ上限に達することを理由として、海外からの新規受入れが停止されています。

つまり、455万8,000人という数字は単なる参考値ではありません。

企業が外国人を採用できるかどうかを左右する行政上の判断の土台となる数字です。
それほど重要な数字である以上、政府には、「総務省の統計を基に農林水産省で算出した」と説明するだけでなく、

どの統計の、どの時点の、どの産業区分を使い、どの数字を加え、どの数字を除き、455万8,000人に至ったのか
を明らかにする説明責任があると私は考えます。

第三者が同じ統計を使い、同じ455万8,000人という数字を再現できる。
そこまで明らかになって初めて、受入れ上限の根拠を外部から検証することができます。

外国人の受入れを数万人単位で制限し、企業の採用計画だけでなく、そこで働こうとしている外国人本人の人生にも直接影響する制度なのですから、その計算は入口の数字から検証可能でなければなりません。

人手不足25万6,000人なのに、なぜ外国人受入れは5万5,300人なのか

政府は、25万6,000人の不足をそのまま外国人で補うとは考えていません。
2028年度までに、

生産性向上 15万7,700人分
国内人材の追加確保 4万3,000人

によって不足を埋め、それでも残る5万5,300人を外国人で補うという考え方です。
つまり、

25万6,000人-15万7,700人-4万3,000人=5万5,300人

です。
この5万5,300人の内訳が、

特定技能1号 5万人
育成就労 5,300人

です。

出入国在留管理庁 「特定技能制度及び育成就労制度の受入れ見込数について(案)」

生産性を高め、日本人を含む国内人材を確保したうえで、それでも足りない部分を外国人材で補う。
この政策の思想自体には合理性があります。

だからこそ重要なのは、

15万7,700人の生産性向上と、4万3,000人の国内人材確保という前提が、どのような根拠で置かれ、実際にそのとおり進んでいるのか

ということです。

外食業の「生産性0.6%」「国内人材0.2%」の根拠は何か――国会での質疑

この点は国会でも具体的に質問されています。

2026年4月21日、第221回国会の参議院法務委員会第6号で、国民民主党・新緑風会の川合孝典参議院議員が、外食業の特定技能1号の受入れ上限5万人をどのような根拠で設定したのか、農林水産省に質問しました。

これに対して答弁したのが、高橋一郎・農林水産省大臣官房新事業・食品産業部長です。

高橋氏は、生産性向上については、これまでの外食業の生産性向上のペースである年0.6%、国内人材確保については、全産業平均の就業者増加率である年0.2%を確保することを前提として計算したと説明しています。

 

国会会議録
第221回国会 参議院法務委員会 第6号
2026
年4月21日

川合孝典議員の質問(発言55)

高橋一郎・農林水産省大臣官房新事業・食品産業部長の答弁(発言56)

 

この答弁によって、0.6%と0.2%という数字を設定した考え方はかなり明確になりました。
しかし、同時に新しい疑問も生じます。

全産業平均で就業者が年0.2%増えているからといって、深刻な人手不足が続く外食業でも、同じように国内人材を年0.2%ずつ増やせると考えてよいのでしょうか。

川合議員は同じ質疑で、外食業の特定技能外国人が2023年の1万3,312人から2025年には4万3,869人へ、わずか2年間で3.3倍になったことについても質問しています。

これに対して高橋氏は、全分野平均では1.8倍だったのに対し、外食業では3.3倍になったことから、他分野より積極的に特定技能外国人を活用した結果、受入れ見込数の上限へ早く到達する見込みになったと説明しています。

高橋一郎氏の答弁(発言58)

しかし、企業が想定以上の速さで特定技能外国人を採用したという事実は、別の見方をすれば、

制度設計時に見込んでいた以上に、外食企業の外国人材への需要が強かった

可能性も示しています。
だからこそ、「上限に達したから止める」で終わるのではなく、その原因となった需要と供給の変化を改めて検証する必要があります。

 

2025年実績では、国内人材は「増加」ではなく5万人減少した

この点について重要な資料が、2026年10月19日の第15回有識者会議で提出されました。
農林水産省の

「外食業分野の受入停止措置に対する御指摘に係る回答」

です。
そこで示された2025年の想定と実績を見ると、

外食市場規模 想定26.1兆円 → 実績26.3兆円
特定技能外国人 想定2.8万人 → 実績4.4万人
国内人材確保 想定+1.72万人 → 実績▲5.0万人

となっています。政府資料では、2025年の総就業者数も455.2万人とされています。

第15回特定技能制度及び育成就労制度の基本方針及び分野別運用方針に関する有識者会議
2026
年10月19日


ここは非常に重要です。
外食市場規模そのものは、おおむね想定に近い水準でした。
しかし労働力供給を見ると、増えると想定していた国内人材は、実際には減少しました。
その一方で、特定技能外国人は想定を大きく上回って増えています。

つまり、受入れ上限を決めた際の労働力供給についての予測と実績の間には、すでに明確なずれが生じています。

もちろん、1年間の実績だけで将来予測全体が誤っていたと断定することはできません。
重要なのは、当初予測が当たったか外れたかではありません。

予測と現実との間にずれが生じたことが確認されたとき、そのずれをいつ、どのような基準で、外国人受入れ上限の再計算に反映するのか。

そこが問題なのです。

 

インバウンドなど外食需要の変化は、受入れ上限の予測にどう反映されるのか

さらに確認しなければならないのは需要側です。
政府は2028年度に必要な就業者数を481万1,000人としています。その算定では、外食市場規模について、コロナ禍前5年間の伸び率などを基に将来の市場規模を推計しています。

しかし、外食業を取り巻く環境は大きく変化しています。
コロナ禍によって一度大きく減少した外食需要は、その後回復しました。

訪日外国人旅行者も大きく増えています。日本政府観光局によれば、2026年1月から9月までの訪日外客数は約3,073万人です。9月単月は前年同月を下回ったものの、9月までの累計では2年続けて3,000万人を超えています。

日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年9月推計値)」

また観光庁によれば、2026年7~9月期の訪日外国人旅行消費額は2兆2,076億円、前年同期比3.2%増となり、第3四半期として過去最高となりました。訪日外国人1人当たり旅行支出も23万4,000円で、第3四半期として過去最高です。

観光庁 「インバウンド消費動向調査2026年7-9月期(1次速報)」

もちろん、訪日外国人が増えれば、その人数に比例して外食業の必要就業者数が増えると単純に考えることはできません。
しかし、政府自身が観光立国を政策として進め、訪日客数や旅行消費額の拡大を目標としている以上、そこで生まれる飲食需要の変化が外食業の人手需要にも影響することは考慮する必要があります。

2019年に特定技能制度が始まった時点で、その後のコロナ禍や現在のインバウンドの状況を正確に予測することは不可能でした。
それ自体を問題にするつもりはありません。

問題は、
予測できなかった環境変化が現実に起きた後、それを将来の外食需要や必要就業者数の推計に、どの程度の頻度で取り込む仕組みになっているのか

ということです。
供給側だけでなく、需要側についても同じ検証が必要です。

 

外食業の外国人受入れ上限はいつ見直されるのか

出入国在留管理庁の育成就労制度Q&Aには、受入れ見込数について、
「5年ごとに設定し、大きな経済情勢の変化が生じない限りは、これを受入れ上限として運用する」
とされています。

出入国在留管理庁 「育成就労制度Q&A」

ここで重要になるのが、「大きな経済情勢の変化」とは何なのかということです。

国内人材が増加するという想定に対して、実際には減少した。
特定技能外国人への需要は想定を大きく上回った。
外食業の外国人受入れ上限には、2028年度末を待たず2026年に接近した。

こうした事実は、「大きな経済情勢の変化」に該当するのでしょうか。
どの程度のずれが生じれば再推計するのでしょうか。
誰が、どの時点で、その判断をするのでしょうか。

受入れ上限を5年間の数字として設定するのであれば、同時に、
需要、国内人材、生産性、外国人材への需要について毎年実績を検証し、一定以上のずれが生じた場合には受入れ見込数そのものを再計算する仕組み

を明らかにする必要があるのではないでしょうか。

 

2026年10月26日の外食業特定技能運用要領改正で何が変わったのか

2026年10月26日には、
「特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領―外食業分野の基準について―」
が改正されました。農林水産省のページでも、10月26日一部改正版が公表されています。

農林水産省 「外食業分野における外国人材の受入れについて」

改正後の運用要領では、特定技能外国人に対して、キャリアアッププランのイメージをあらかじめ設定し、雇用契約を締結する前に書面または電磁的記録を交付・提供して説明することが明記されています。

プランには、想定されるキャリアルート、各レベルの業務内容と習熟の目安となる年数、レベルアップに必要な経験・実績、資格・検定などを盛り込むことが想定されています。

また、同じ運用要領には、
育成就労、特定技能1号、特定技能2号を通貫した「育成・キャリア形成プログラム」を策定する

ことも明記されています。外国人本人が自らのキャリアを俯瞰し、技能向上・育成を予見できるものとするとともに、受入れ企業側にとっても計画的な育成・評価の指針とする考え方です。

育成就労制度は2027年4月から始まります。
企業は3年間かけて外国人材を育て、その先に特定技能1号、さらに特定技能2号というキャリアを描くことになります。

制度が外国人本人と企業の双方に、数年先を見据えたキャリア形成を求める方向へ進んでいるからこそ、外国人受入れ人数を管理する制度の側にも、中長期的な予見可能性が必要です。

 

2027年4月の育成就労開始を前に、外食業の協議会加入受付はまだ始まっていない

実務上の準備も確認しておく必要があります。
農林水産省は「食品産業育成就労協議会」を設置しており、育成就労実施者は、外国人技能実習機構へ育成就労計画の認定申請を行う前に協議会へ加入する必要があります。

しかし、2026年11月2日現在、飲食料品製造業分野では加入受付が始まっている一方、外食業分野についてはまだ受付を行っていません。 農林水産省は「受付開始日が決まりましたら、改めてホームページにてご案内」としています。

農林水産省 「食品産業育成就労協議会(飲食料品製造業分野・外食業分野)について」

制度開始まで5か月です。
海外での募集、面接、雇用条件の設定、入国前日本語教育、育成就労計画の作成などには時間が必要です。

育成就労5,300人という受入れ枠だけでなく、実際に企業が制度開始に向けて準備できる環境が、いつ整うのかも注視する必要があります。

 

問いたいのは「5万5,300人が多いか少ないか」ではない

私は、5万5,300人という外国人受入れ上限そのものが、多いか少ないかだけを問題にしたいわけではありません。

もっと重要なのは、
その5万5,300人が、どのような事実と予測に基づいて算出され、その予測と現実がずれたときに、どのように見直されるのか

ということです。

その議論をするためには、まず計算の出発点である455万8,000人について、政府がその具体的な算定過程を明らかにする必要があります。
さらに、2025年の実績では、国内人材、特定技能外国人ともに、当初想定とのずれがすでに確認されています。

政府自身が「想定」と「実績」を比較し始めたことは重要な一歩です。
しかし、検証するだけでは十分ではありません。

検証した結果を、いつ、どのような基準で受入れ上限の見直しにつなげるのか。

そこまで制度として明らかにする必要があります。
2026年10月26日の運用要領改正では、企業に対して外国人のキャリアアッププランを事前に示すことまで求めるようになりました。

企業側に、3年、5年、その先まで見据えて外国人材を育成し、本人のキャリア形成を支援することを求めるのであれば、制度側にもまた、

算定根拠の透明性、実績による検証、環境変化への対応、そして将来を見通せる予見可能性

が求められるのではないでしょうか。
外食業で今起きていることは、2027年4月から始まる育成就労制度全体を考えるうえでも、重要な先行事例になっていると考えます。

 

 

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